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ディグ・フィールド・ミリオン(マレー・ロス35)は進水当時、雑誌KAZIにセールボート・レビューとして掲載されました。
その記事から、マレー・ロス35がどんな船か少しでもわかっていただければ幸いです。
※掲載写真や内容は、取材当時のNSチャレンジとなっています。


●スターン部のセクション形状が円弧に近いのがわかる。ハルは全体に無理のない丸みを帯びたもので、ナックルや直線部らしきものは皆無。


▲巨大なスピンによる軽風リーチング


▲レーサーらしくツルンとしたコーチルーフ上。
ハンドレールなど余分な物は一切ない。


▲コックピット後端両脇の白いハッチのポート側は
コンロ用プロパンガスが収まっている。


▲すっきりしているサイドデッキ回り


▲強風ではマストヘッドホイストのスピンは辛いだろう。
フラクショナルホイストもできるようになっている。


▲コックピット前部はかなり幅が狭くなっている。
ウインチはコックピット脇のデッキとコーチルーフ上に各2つの計4つ


▲ヘッドルーム


▲ギャレー


▲ナビゲーションステーション


▲手間のかかっている内装。細部に渡って丁寧な仕上げだ。

デッキキャンパーやコーチルーフ上のキャンパーをうまく利用して、大きなコーチルーフを目立たせな いようにしている工夫が見られる。
 
マレー・ロス
 ニュージーランドがセーリング大国であることは誰もが認めることであり、アメリカズカップをはじめレースシーンでの活躍は人口300万人そこそこの国が成せる技とはとても思えないほどだ。
彼らの成功はセーラー、デザイナー、ビルダーが揃って向上していったことにある。
往々にしてキウイの仕れたデザイナー、ビルダーは同時に優れたセーラーでもある。マーレー・ロスもその1人であろう。

マレー・ロスは今回紹介する10.6mレーサー/クルーザーのデザイナーである。日本ではほとんど知られていないロス氏について少し触れておこう。
FDクラスでオリンピック代表に3度選ばれ(内1度は1980年モスクワ大会でボイコットのため不出場)、85年と89年の2度、ウィットブレッド世界一周にワッチキャプテンとして参加しているというからディンギーからオフショアまで乗りこなす優れたセーラーであることが容易に想像できる。

クルーとしてスキッパーとして獲得したタイトルは数え切れない。
驚くべきことにソリング、FD、そしてジャブリンの3つのクラスでNZナショナルタイトルを同じ年に獲得したこともあったという。
このようにもともと乗り手として頭角を現したロスは、ポートスピードを追求し、必然的にセールメーキング、そしてポートデザインへと進んでいった。
1970年代はIOR
のトンカップがキウイたちの間で盛り上がり、世界の桧舞台ではロン・ホランド、ローリー・デヴィットソン、そして若きブルース・ファーらニュージーランド出身デザイナーの軽排水量艇がキウイセーラーに操られ、世界の注目を集め始めたところであった。

ロスもクォーター、ハーフ、スリークォーター、ワントンと、多くのIOR艇を設計し、多くのレースに自ら参加していった。
80年代に入りIORがより一層白熱するに従い、ルールが複雑になる一方、オフショアレーサーとしての純粋さが薄らいでいったのはご存知の通りであるが、マレー・ロスにとっては興味が薄らいでいったようだ。
ルールとの駆け引きにより僅かなゲイン/ロスを図面上でシミュレートするようなプロジェクトよりも、自由な思想によりできあがったポートでロングのオフショアレースに参加する傾向が強まっていった。
乗り手としても先ほど触れたように究極のオフショアレースであるウィットブレッド世界一周レースに2度参加していることからもロス氏の姿勢が見て取れる。
これはどの経歴を持つロス氏のことが日本でほとんど知られていないのは、氏の控えめな性格(であろうと想像する)から来るものであろうか。現在はデザイナーとしてマイペースで仕事をこなしているようで、
決して作品数も多くはない。

デザイン
ロス35に関する資料がほとんど手元になく正確な数字がつかめないので難しいが、セールプランとアコモデーションプランの2枚のA4図面と実物を見た印象を述べよう。
外観は純レーサーのそれである。
垂直に立ったステム、低いフリーボード、コーミングのないコクピット回り、オープントランサム。
シアーは真横から見た状態で直線に見える。言うまでもなく垂直ステムは水線長を可能な限り長くし造波抵抗を減らすためのものだ。
ハルラインズは実艇を見て判断するしかないが、バウのエントリーは
それほどファインではなさそう。
これは同じニュージーランド人デザイナーのブルース・ファーと大きく異なる点だ。
バウ付近のフリーボード面は、前後方向に線稗的でなく丸みを帯びている印象を受ける。これもファー・デザインと対極を成す。
何かとファー・デザインと比べているが、レーテイシダ規則下のレース艇ラインズで最も世界に出国っているのがファー・デザインであることば誰もが認めるであろうし、同じキウイデザイナーとして比較する
には手っ取り早いのでご了承いただきたい。

バウの丸みを帯びた形状は、ミジップからスターンにかけても同様な傾向を見せる。
ただ、ミジップ部はフレアーが少なくボリュームを持たせたものになっており、スターン部は逆にフレアーが大きくボリュームが少ない。
ハル全体がいうなれば卵形状をしている。つまり、無理のない曲面で構成され、ナックルらしきものや直接的な部分が見あたらないのである。
卵形状は他のクセのある形状に比べ、接水面積が少ないはずだ。
これは、同じ体積では球面が最も表面積が少ないことを考えればすぐ分かる。
接水面積が少ないということは摩擦抵抗が少ないことである。しかし、ポートスピードが増して造波抵抗が支配的になれば、接水面積よりも波を造らないようなハル形状が必要になってくる。
バウのエントリーを細くしたり、ヒールした時に水線長が長くなるようにスターンのサイドにナックルを持たせたりすることが有効になる場合があるのだ。
こう考えると、ロス35が卵形状をしていろのは、微風向きのためという結論に達してしまうのは少し安直過ぎるだろう。

ポートの性能は特定条件下でのスピードのみで決まるわけではなく、操縦性、耐航性、スタビリティーなど多くの要素が絡み合って生まれるものであり、デザイナーの解釈が大きく分かれてしかるべきだからだ。
マレー・ロスの他のデザインをいくつか見ていけば、このデザイナーの好みが見えてくるのであるが。
さて、非常にシンプルなハル形状の下にぶら下がるアペンデージは、バルブキールである。
ストラットはかなり欄く必要最小限の面積しか持たない。バルブは絵で見る限りでは層流翼形状をしている。
これは前々回のアメリカズカップ以来流行になったもので(もちろん理論としては古くからあったものだが)、最大厚さがバルプの翼断面中間位置より後方にあり、その最大厚部から後は若干凹曲面気味の形状を持っている。層流状態で低い抵抗値を示すと考えられている形状であり、メルゲス24にも採用されている。
ラダーは楕円形状のプロファイルを持つバランスドラダーだ。
デッキに目を移すと、フォアおよびサイドのデッキキャンパーが大きく傾斜が割ときついのがわかる。さらに大型で高いコーチルーフがあるためキャビン容積の大きさを物語っており、ひょっとしたらアコモデ
ーションが充要しているのではないかとの期待を持たせてくれる。
案の定アコモデーションプランを見ると、充実した内装が描かれており、外観の純レーサーから受ける印象と大きく異なる。

内装に関しては後ほどさらに述べるとして、リグに移ってみよう。ダブルスプレッダーのフラクショナルリグで、スウェプトバックしたシュラウドを持ちランナーを省いているのは今の流行りと言えよう。
スピンは対称のものをJより30〜40cm長いスピンポールにより展開する。
スピンのホイスト位置は、マストトップとフォアステイ・ハウンド細からのフラクショナルホイストの両方がセールプランに描かれている。
メインのロ一チはかなり大きい。
リグに間しては、セールプランと実艇と異なる部分がある。
まず、実艇にはダイヤモンドステイが付いていて、ハウンドより高い部分の剛性を高めている。マストヘッドスピネーカーを展開する際には横方向の堅さが不足気味になるため、それを補うためのものであろう。さらにマストトップのクレーンから伸びるパーマネントバックスティは、クレーンに付いたF R P製パテンにより上方向に引かれ、メインのローチを引っかけないよう工夫されている。
パーマネントを緩めた状態だとパテンの弾力によりパーマネントが上に引かれメインに干渉しないが、パーマネントを締めていくとパテンが逆に下に引っ張られるので通常のマストコントロールを行える仕組みだ。
これはメルゲス24でも使われているアイデアで、特にフルパテンでローチが大きい場合に有効だ。
セールプランはかなり大きい部類に入るであろう。マストヘッドホイストのスピンに至っては巨大と言う表現がぴったりくる。
やはり微風仕様なのであろうか。
セーリングは決して恵まれた天候ではなかったが、とりあえず艇の性格に合った微風から軽風のコンディションでのセーリングを若干行う
ことができた。
セールプランには設計排水量3,900kgとあったが、内装の具合を見るともう少しありそうな印象を受ける。
乗った感じも、最近のレース艇として特に軽いという印象はない。
しかし、ゆとりのセールエリアのお陰か、非常にパワフルな走りである。ヘルムは若干のヒール状態でレース艇としては平均より僅かに強めのウェザーヘルムを感じる。
卵型ハル船型のためか、コースをかってに維持するような性格はなく、小刻みなティラーさばきが必要なのは、レース艇としては逆に必要な繊細さであろう。
巨大なマストヘッドスピンはドラフトが深く、フットのローチも巨大であり、慣れないせいか少し遽和感を感じる。
スピンポールは30〜40cmバウより突き出ているのだが、余りにも深いスピンはちょっとしたパフでボートをロールさせる力となり、直ぐにス
ピードに結びつかない印象を受けた。
もう少しセールをフリーにできればと感じたのだ。この辺はセールのデザインとセールハンドリングによって改善していくことではある。
クローズにしろフリーにしろ、大きなセールプランを操るにはそれなりのトレーニングが必要であろう。
ボートスピードを追求するトップセーラーのマレー・ロスだからこそ、そう簡単に体得してしまうような組み合わせで終わっていないのかと思えば納得できるというものだ。

内装
外観のスパルタンな印象とは打って変わって非常に充実した内装が対照的だ。
大さなコーチルーフのお陰で、マックスヘッドルームは186cm確保されている。内装設備は純クルージング艇の水準に達してると言えるだろう。
この内装に関しては、日本のオーナーが詳細に関してビルダーに注文を出したとのこと。意外性を狙ったわけでもないだろうが、中と外がこれはど異なる印象を与えるのも珍しい。
IMSによるレースはあらゆるタイプのボートを公平に評価することを目的としているわけだから、内装に凝って重くなってもそれなりの評価が下され、レースに勝てるはずだ。
クルージングのアコモデーションに関しては人それぞれの考え方があり、画一的に決められた装備を強制的に持たなければならないとするのにも問題がある。
IMSの評価方法がもっと高度になり洗練され、各自が考える理想のオフショアレーサーで公平にレースができることが最終ゴールである。
まだ道のりは遠そうであるが、そんな日がくればさぞ楽しいだろうと想像力を働かせてくれるような今回の試乗艇であった。

(KAZI誌 1997年9月号)

 


▲ほぼ完全にむき出しとなるエンジン


▲スターボード側クォータバース。手前はトランサムまで続いている。
 

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